まず、読了直後の感想から申し上げます。
いやぁ面白かった。こんなに知的興奮を味わわせてくれる書物に最後に出逢ったのはいつのことでしょう。一気に読み通しました。
著者は
美術史家・歴史研究者。鉄鋼メーカーに勤める夫の異動に伴って南米ベネズエラに一時移り住んだことをきっかけに、歴史上かの地のオリノコ川周辺が欧米列強の帝国主義にいかに翻弄されてきたかについて関心を持ち、それを本書に結実させたということです。膨大な資料にあたると同時に、実際に現地に足を運んでいることの強みが見せる、なかなかの力作といってよい書です。
タイトルにあるようにベネズエラの当該地域はまず黄金伝説に引き寄せられた大航海時代の征服者たちに簒奪され、その後も真珠やランの花、ダイヤや鉄鉱石の利権をめぐっておよそ500年にもわたって蹂躙されていきます。その様子を本書は大変丁寧につまびらかにしていきます。
かといって本書には硬質な歴史学術書の趣は一切ありません。
エリザベス1世の肖像画、デフォーの「ロビンソン・クルーソー」やドイルの「失われた世界」といった小説、さらには映画「パピヨン」など、一般読者に卑近な例を引きながら、それぞれの作品の中にベネズエラと帝国主義の関係がどう込められているのかを分かりやすく解き明かしていくのです。
無邪気に読んだり見たりしてやり過ごしていたそうした作品の数々が、はからずも帝国主義の一端を今に伝えるものであったり、もしくはもっと積極的に欧米の帝国主義の道具として使われていたりしていた跡を本書で教えられ、<知る>という行為が与えてくれる気分の高まりを幾度もおぼえました。
あたかも上質のミステリー小説を読むような興奮に近いものを感じます。
と同時に、素朴でもてなしの精神にあふれていたことがあだとなり、結果的に隷従の生活を強いられることとなった南米先住民族の哀しみにも改めて思いをはせました。