私はプロテスタントのクリスチャンです。
以前から、エホバの証人の「輸血拒否」は何故なのか?また輸血拒否事件と言うのがあったと聴き、それがビートたけしさん主演で映像化されているのを見て、今回購入しました。
第一の感想は、非常にショックでした。
言葉で聞いていた「輸血拒否」でしたが、実際映像化された姿を見たら、本当に、エホバの教義(ビデオの中には一切「エホバの証人」と言う言葉は出ないように配慮されています)を家族中で信じ、結局大事な一人息子を失ってしまう悲しみと、頭では教義を理解し、輸血を勧める医師にも「私たちは家族でここまでやっと信仰を育ててきたのです。」と言い、頑として輸血を断った主人公・荒木昇演じるビートたけしさんの、大卒の真面目な夫であり、父親である「淡々と」した演技がとても真に迫って来るのです。
荒木が仕事も家庭も行き詰っている時、妻が誘われた勉強会に夫の荒木も出るようになり、だんだん家族揃って信者になっていく姿が「淡々と」描かれています。
この「淡々と」と言うところが怖いなあと思うと同時に、ドラマの中のある医師が、息子の命と信仰の選択で葛藤する荒木夫婦を見て「ああ、この人たちも普通の人たちなんだなあ」と言う言葉が重く響きました。
きっとそうなのでしょう。信仰を持つきっかけはいろいろだと思いますが、概して、やおろずの神の国・日本で、あえて一つの宗教を信じると言う方々、特にキリスト教は(私も入りますが)ちょっとしたきっかけなのではないかと思います。特別な人ではなく、割と真面目で(日本人の大半がそうですが)心が弱っている時心のよりどころになるものが欲しい・・・荒木夫妻の場合はそれがエホバだった。そして、その団体は輸血を禁じていたという悲劇につながったような気がします。ビートたけしさんと大谷直子さん演じた荒木夫妻も、非常に真面目な一市民の夫婦でした。ですからこのドラマを見ていて、誤った教義を信じ輸血拒否をしたために、息子を失ってしまった余計苛立ちと悲しみがつのるのです。
しかし、エホバに限らず「自分の信仰が絶対だ」と思った瞬間から、私を含め人々は、傲慢、かたくなになり、あるいは原理主義者になったり、その宗教自体がカルト化していくのではないでしょうか?
これはキリスト教のみならず、どの宗教でも起こりうることだと思います。そう言う意味で、
タイトルに書いたとおり、信仰をお持ちの方全てに見て頂きたい作品です。非常に真面目に作られていて「宗教とは?神とは?信仰とは?」を問われる良作です。
エンディングのシーンで、生前息子が大好きだったサッカーをやっている少年たちを荒木が見ながら、川原の土手に座って見ているシーンが映ります。そこに、小日向文世演じる若い医師が、亡くなった息子の帽子を持ってきて、感謝する荒木と語るシーンがあります。荒木は亡き息子のことを「(宗教上)これでよかったんだ」というようなことを言いますが、医師が去る瞬間、振り向いて荒木を見たら、荒木は、誰もいなくなったサッカー場。かつて、息子と二人でサッカーをして遊んでいた場所で、亡き息子を思い出したのでしょうか?あたかもその場にいるように、一人で相手をしているシーンが映ります。
その瞬間を見た途端、ずんと心が痛くなり、涙が出そうになりました。
頭では信仰を貫いたから良い、とわかっていても、父親の感情は「大切な息子を亡くしてしまった」と言う悲しみで一杯の荒木を、笑顔でそこにはもう居ない息子とサッカーをする姿を演じるビートたけしさんは、圧巻でした。
ある宗教団体に翻弄された、真面目な普通の家族の、悲しい物語だと思います。
私は原作の本より先にこちらを見ましたが、是非原作の
説得―エホバの証人と輸血拒否事件も読んでみたいと思います。
信仰を持っている方々と書きましたが、エホバに関心をお持ちの方も、是非ご覧頂きたい一作です。
ラスト近くに、
長谷川京子と
椎名桔平のラブシーンがありましたが、絡みは、キスだけにして欲しかったです。 確かに、追い詰められて、あんな風になったのですが、せっかくの物語が、台なしになったかもしれませんね