ダイナメーション(コマ撮り特撮)の巨星、レイ・ハリーハウゼンの最高傑作といわれる、
ギリシャ神話に題材を取った冒険映画です。
ストーリー的には日活から発売されている「アルゴノーツ/伝説の
冒険者たち」の方が、
ギリシャ神話の物語にはより忠実で、旅の途中のアマゾネスの島やコルキスに着いてからの数々の試練、テッサリアに戻ってから宿願を果たすまでも描かれており、アルゴ号の乗組員たちもカストールとポリュディケイスやオルフェウス、そして狩場の乙女アトランテ(アルゴ号には実は女性が一人乗っていたんです)など有名どころをしっかり押さえてあって
ギリシャ神話好きには納得の一本なのですが、3時間は長すぎますし、画面は4:3の旧TVサイズ、SFXもCGバリバリですごいところはすごいのですがチープな所は泣けるほどチープです、特にオリュンポスの表現とヒドラが・・・・。
対して本作は、
ギリシャ神話本編からエピソードをうまく拾って104分に収めています。
また、ヘラクレス脱退の理由はこちらの方が
ギリシャ神話に近いでしょう。
ダイナメーションの迫力もいまどきのヌルヌル動くCGなど比べ物にならないほどすごい。
青銅の巨人タロスの軋んだ感じやガイコツ戦士のギクシャク感、はたまた七つ頭の水竜ヒドラのウネウネ動く表現の使い分けがCGで出来るでしょうか?。
映画としての面白さは、本作の方がアルゴノーツより数段上です。
本作でアルゴ探検隊の物語に興味を持って、より詳しく知るためにアルゴノーツを観るというのが正しいと思います。
ところで、アルゴ探検隊が他国の宝物を強奪に行ったとの印象をもたれている方がいますが、確かにどちらの作品でも説明されていないのでこの両作を見る限りそう思われてもしかたない部分はあります、しかし
ギリシャ神話をもっと知れば、もともとこの宝物はテッサリアにあるべきものを取り返しに行ったとも解釈できるんですよ、いきさつはけっこう悲劇ですが・・・。
…と鑑賞後にはつい言いたくなってしまう圧倒的傑作。まあ、小学生の頃からTVで放映されるたびに観てきたという評者の思い入れもあるのだが。
プロットの整合性などはあってなきが如しである上、
スタッフ&キャストの大半はイギリス人、ロケーションは
イタリア、群衆シーンの一部はストック・フィルムと、コスト・ダウンに苦慮していた当時の
ハリウッドならではの外注プロダクションで、人物のバスト・ショットばかりがやけに目につくのもいかにもイギリス映画またはTV的。要するにヤスい、ということなのだが、それをまったく気にさせないのはやはりひとえにレイ・ハリーハウゼンの特殊撮影。正直、彼がダイナメーション(作品によって呼称が違う)を手掛けた他の作品では、そこだけがワル目立ちしていると感じられることもあるけれど(『
恐竜100万年』など)、本作では疑似神話世界の背景の中にバランスよく配置、いかにもな見世物感から脱し得て、全体の完成度を高めている、早い話がタメが利いている。彼の作品の中でも本作が特に人気が高い所以なのだろうが、このあたり、ハリーハウゼン以上に本編の監督と脚本の手腕か。
実際、本作の監督ドン・チャフィーといい、
ジョン・ギラーミン、
ケン・アナキン、
ルイス・ギルバート、
ロナルド・ニームら1910〜20年代生まれ=イギリス大正男の世代、一般には
ハリウッド大作の雇われ現場監督みたいなイメージで一括りにされがちな上、壮年期の地味ながら力のこもった諸作は同時代のやはり
ハリウッド映画の陰に隠れと、評価の面でかなり損しているところがあると思う。最近はワンコインDVDで彼らの半ば忘れられていた作品が幾つか復活、ようやく手軽に観られるようになった。日本の映画ファンには意外に盲点になっていると思しき当時のイギリスB級映画、さらに活発なリリースを期待したいところ。
閑話休題。何だかんだ言って本作、徹底的に見せ場にこだわったハリーハウゼンのエンターテインメント&クリエーター精神はやはり百点満点。青銅巨人が首をギギッと巡らせる瞬間は文字通り戦慄的。骸骨軍団との対決は何度観ても手には汗、顔はニコニコ、思わず「いや、すげーな!」とひとりごちてしまうという仕儀。映画を観る歓びが間違いなくここにはある。19世紀末、世界の大衆が初めて映画というものに触れた時の驚きと感銘はまさにこれ、なのではないか。CG全盛の今ではなく昭和○○年代に本作と巡り会えたのは確かに幸せだった。最近の子供たちは本作をどう観るのだろうか。
音楽は他にも幾つかハリーハウゼン作品を担当したバーナード・ハーマン。いつもの彼からするとやや一本調子でメリハリを欠いているようにも感じられるが、本作のいささか大味なフレスコ的作風には却って似つかわしいかも、と贔屓の引き倒しをしておく。作品世界にふさわしく粗削りな古代楽器を髣髴とさせるオーケストレーションは、いつもながら素晴らしい。
さして華のない…と言っては失礼か、ヒロイン役のナンシー・コヴァックは『
奥さまは魔女』その他当時のTVでよくお見かけした顔。指揮者ズービン・メータの現夫人とか。
星五つをつけたいところだが、
DVDも出ているのでこちらは四つとしておこう。
ストップモーション アニメで迫力あるモンスターや白骨戦士や守り神を実写に合成をする、アメリカでは既に大昔からこれ程の高い特撮技術が発展をしていたのですね、驚くばかりです。制作は1958年制作(シンドバッドの冒険)シリーズから既に多くの特撮作品を手がけていたハリーハウゼン、ストップモーション アニメ技術で怪獣や闇の白骨戦士、巨大神像などで魅力たっぷりな
ギリシャ神話の世界を造りだしているのが素晴らしい。神秘的ながらどこか原始的な味のある闇の神殿、人間味溢れるゼウス神やその妻ヘラなど観ていて実に楽しい、ジェーソン王子を演じた俳優トッド アームストロングの若々しい男前ぶりも魅力的、これはお勧めな名作ですね。公開は1963年。