The Knifeは
スウェーデン人の姉弟によるエレクトロ・デュオ。
2007年の前作『Silent shout』がPitchforkで年間ベストアルバムに選ばれるなど高評価を得て、
今回が実に6年振りのアルバムとなる。
前作同様、テクノとアンビエントと両極端な曲が同居、全体的に不気味で暗い雰囲気が漂っている。ちなみにアンビエントな曲は、1分以下の曲を除くと3曲。
前作との違いであり、最大の特徴は「音色」だ。
先行公開されていた“A tooth for an eye”のように、今作はコンガのようなトライバル(民族風)な音色を多用している(特にDisc1に当たる1〜8曲目)。イントロだけ聴くとアフリカンミュージックのようだ。またtr4では日本のお祭りで聞こえてくるような笛も使われている。
先行公開されたもうひとつの曲“Full of fire”ではトライバルな音色を前面に出しているわけではないが、調性を無視しているような、他のアーティストとは明らかに異なる音のチョイスをしている。
ボーカルも入ってはいるが、ときおりシャーマンのように叫ぶようなスタイルはメロディラインよりもトライバル感をさらに助長する働きが強い。
この2曲でもうひとつ顕著な特徴はどちらも音数が少ないこと。
2曲を聴いてみると、先ほど述べた音色の特徴がすぐ掴めると思う。だって、ほとんどそれぐらいしか使われていないのだから。
前作も他のアーティストより少ない音数であったが、今作はさらに絞ってきており、その一種の「隙間」によって、よりトライバルな雰囲気が出ている。
また、アンビエントな曲は上記した音色で作ったノイズナンバーという具合。例えばtr12(Disc2の5曲目)は、男の叫び声がサックスのような音と不気味に交わっていく曲で、それが延々と10分も続く。こういった曲も単体で聴くとただのノイズナンバーなのだが、トライバルな曲に挟まれると生け贄を捧げる儀式を目撃しているような気分になる。
このように書くとワールドミュージックのひとつのように思われてしまう。しかし、彼らはテクノ/ハウスの文脈で語られるアーティストである。
使っている一つ一つの単語はトライバルだが、あくまで今作は「ダンスミュージックの文法」に則って作られている。
その結果、ジャングル奥地に生息する部族のお祭りと、大都会の深夜のクラブを行ったり来たりするような、摩訶不思議サウンドになっているのだ。
デラックス・ヴァージョンについてだが、そちらには“Old Dreams Waiting To Be Realized”という19分の大曲が加わって2枚組になっており、表に「End Extreme Wealth」というシュールな漫画が、裏には歌詞が書かれたブックレットのようなものがついてくる。
まずは19分の曲であるが、アンビエントナンバー。正直、アンビエントで19分はツライ…。
ブックレットの漫画であるが、男性が学者さんを交えて「富の集中」を批判する内容。
ノーベル平和賞を受賞した経済学者としてBlumi Blamiなる人物が出てくるが、もちろんそんな人物はいない。
The Knifeの主張なのだとは思うが、40コマで専門的な内容ができるわけもないし絵柄的にもひたすらシュールである。別に歌詞と密接に関係しているわけではないし。
さて、私は間違えて最初通常版を、後からデラックス版も買ったわけなのだが、正直、デラックス版である必要性は、ないかな…。以前のレビューを見てデラックス版を購入された方、本当に申し訳有りません。
※お詫び
間違えて通常版を買ってしまったときのレビューを削除して、今回のレビューを書いています。ご了承ください。