廃盤になっていますが、多田武彦の作品を知る上で欠かせない演奏ですので、再販してほしいCDです。中古市場でも結構な値段がついていますので。
『雪明りの路』の演奏は関西学院グリークラブですが、指揮は福永陽一郎氏です。合唱の歌わせ方、テンポ設定など微妙に北村協一氏とは違うのが多田武彦マニアにとっては興味深いところです。関学グリーの名演奏で、圧倒的な量感をもって男声の厚いハーモニーが飛び込んできます。ナローレンジの録音ですが、歴史的な演奏の価値に免じてください。録音データはありませんが、1975年発売のLPの解説が転載してありますので、それ以前なのは確かです。
『
富士山』は福永陽一郎指揮、日本アカデミー合唱団(合唱団
京都エコーのメンバーが中心)の演奏です。合唱指導は関屋晋氏という豪華な顔ぶれです。1970年発売のLPが音源ですから、演奏は今の感性から聞くと厚く重く聞えるかもしれませんが、これが多田武彦ですし、この心を揺さぶるような量感がたまりません。この重厚な音色は現在の男声合唱団からは生まれないでしょう。
『在りし日の歌』は北村協一指揮、関西学院グリークラブ、『冬の日の記憶』は福永陽一郎指揮、同志社グリークラブで、大学グリークラブの名演奏を聴くことができます。いずれも1982年3月に池田市民文化会館で収録されました。
ライナーノートは多田武彦氏と福永陽一郎氏が各曲について思いが綴られており、資料的価値も高く、読んでいてとても参考になります。なにより伊藤整氏の手紙が収録されていますから。
多田武彦氏やトレーナーの大久保昭男氏はお元気ですが、関屋晋、福永陽一郎、北村協一という名指揮者は鬼籍に入られました。名演奏を残された方々に感謝の気持を込めて。
このCDは「1枚のCDに2つの演奏を収録した合唱ベストカッ
プリング・シリーズ」の1枚。男性合唱のCD・レコードは、ビクターと東芝が2大レーベルですが、そのレーベルの垣根を越えて、2種類の演奏を1枚のCDに納めたもの。
[このCDの内容]
○ 名曲男声合唱組曲『雨』の終曲「雨」・・・・・1曲だけ
吉村信良指揮「
京都産業大学グリークラブ」の演奏と、北村協一指揮「立教大学グリークラブ」による演奏の両方が納められている。
○ 男声合唱組曲『雪明りの路』・・・・・全曲
畑中良輔指揮「慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団」の演奏と、福永陽一郎指揮「関西学院グリークラブ」の演奏の両方が納められている。
「雪明りの路」については、関西学院大学の演奏も、ワグネル・ソサィエティーの演奏もすばらしいものです。(特に、ワグネル・ソサィエティーの演奏は、合唱史上に残る名演奏と思います。)
名演奏を納めたすばらしいCDなのでお勧めです。
なお、ワグネル・ソサィエティーの「雪明りの路」は、「日本合唱曲全集『雨』多田武彦作品集(ASIN: B000B84PQG)(多田武彦の組曲が5つも入っている。すごくお得感がある。)にも入っています。
「人はみな草のごとく、その光栄は草の花のごとし」。 死を意識しての積極的な「生」のあり方、神を愛するのとは異なる、「人」の愛し方を問い掛ける珠玉の名作。文章が、選び抜かれた言葉が、美しい旋律を奏でる。著者の『愛の試み』と併読すると、主人公の愛の哲学が理解できておもしろい。福永武彦の最高傑作。