アンセルメは「展覧会の絵」をモノラル時代を含めて1947年、1953年、1958年、1959年と4回録音しています。1958年の3回目の録音のLPはアメリカでは発売されましたがヨーロッパと日本では発売されず、のちにマスターテープからCD化され国内発売もされていましたPOCL-9704(448 354-21)。今回のSACDは1959年の録音でAnsermet指揮/L'Orchestre de Suisse Romandeの演奏、ホールはVictoria Hall、プロデューサーはJames Walker、エンジニアはRoy Wallaceと、3回目の収録時とまったく同じホールとメンバーで行われていますが、この二種類の盤は聴いてみますとかなり違います。1958年盤は1959年盤に比べて響きが少なく聞こえますが弦の音はボウイングを感ずることができるほどリアルで且つ濁りが少なく、管楽器も打楽器の音も鮮鋭です。この時期の録音としてはステレオ感を強調することなく、落ち着いた録音だと思います。なぜ一年後に再録したのか、その真相はわかりませんが、日進月歩の収録技術、ステレオ感や響きの取り入れ方、ホールのオルガンの魅力を加えたいなどの要素に触発されたことが考えられます。
この1959年のSACD盤では、注意しないとわからない程度にテープのヒスノイズを残していますが、マスターテープの情報をぎりぎりまで活用するマスタリングの姿勢のあらわれだと感じまじました。1958年盤に比べて演奏空間を感じさせるように響きが取り入れられ、オーケストラ全体から発散される音に押される感じがあります。また、終曲の「キエフの大門」の後半に普通は使われないオルガンが付け加えられています。最近のデジタル録音のように超低音域まで延びた締まった音ではありませんが、オルガンが出てくるとその重い響きに圧倒されます。ただ大きな音が出てくると他の音がマスクされる現象のために、オーケストラの各パートの音を明瞭に聞き分けにくくなるのは人間の生理現象ですから仕方のないことでしょうが、聴き手の個人差がありますから聞き分けはチャレンジのしどころかもしれません。SACDフォーマットに基づく、周波数帯域、過渡特性、ダイナミックレンジの優位性を感じさせる録音空間の雰囲気を味わえます。アナログ録音の内容を丁寧なマスタリングでSACDに活かし切っていると感じました。
既にメンデルスゾーン: 劇音楽「夏の夜の夢」抜粋、アバド/
ベルリン・フィル ESOTERIC ESSS90066で実現できていますが、今後はDDD収録のマスタ音源が制作から年月を経て著作権の関係も楽になってくるでしょうから、それらの音源に基づくSACDを制作する機会を求めてほしいものだと思っています。
美しい映画である。日本と言ふ国の美しさを、切ないまでに感じさせる映画である。中でも、雪の美しさは、言葉で言ひ表す事の出来無い物である。雪国の静けさと寒さを、そして、人々の暖かさが、心に伝わって来る作品である。今までに観た熊井啓監督の映画の中では、私は、この作品が、ダントツに好きである。熊井啓監督は、何故、こう言ふ美しい映画を、もっと作らなかったのだろうか。
(西岡昌紀/内科医)