本作をテレ東で放送時、セガールと少林サッカーの監督が手を組んだ!と謳っていたのだが、少林サッカーの監督はチャウシンチーで本作の監督とは語感が似てても全く関係ないだろう・・・・。
本作のチンシウトン監督は過去にはテラコッタウォリアやスウォーズマンシリーズでワイヤーカンフー
香港アクションの傑作を作った人だが、今回は何の因果かセガール作品の監督を担当。この頃既に肥えてきたセガールに華麗なワイヤーアクロバットなどさせられる訳もなく、いつものB級丸出しのセガールアクションの雰囲気の中で、時折無意味に射撃シーンやセガール以外の人物のアクロバティックなアクションを入れ込んでいるが、所詮焼け石に水でセガール映画のクオリティ向上には微々たるものだったようだ。それでも21世紀に入ってからのセガール作品としてはまだ見られる作品だと言える。
インド映画を語る際に必ず話題になるのが、唐突に始まる大群舞のミュージカル・シーン。もともとミュージカル映画やダンスを題材にした映画は嫌いではないので、独特のセクシーな振り付けは一度見ると頭の中でエン
ドレスで再生されるほどハマってしまう。これまでは単にメロディとダンスにだけ注目してきたが、遅ればせながら今回やっとミュージカル・シーンの役割に気がついた。一見、無意味に挿入されているように思える歌と踊りも、歌詞に気をつけて見てみると、実は歌って踊りながら登場人物の過去や心情を語っているのだ。さらにしつこいまでの繰り返しによって、見ている者は知らず知らずのうちに登場人物を深く理解することになる。
「ラ・ワン」では早々とシャー・ルク・カーン演じるゲーム開発者のシェカルが殺されてしまうが、妻のソニア(カリーナー・カブール)や息子プラティク(アルマーン・ヴァルマー)との絆が歌と踊りで語られ、彼らに感情移入してしまう。ラジニカーントの男の色気たっぷりのダンスもいいが、こういうほろりとさせる歌や踊りも悪くない(ちなみにラジニは「ロボット」のチッティ役でカメオ出演しているが、いまひとつオーラが感じられず、そっくりさんかと思った)。
前半はコメディ色が強くてややダレるところもあるが、後半の締まった展開には一気に引き込まれる。ゲームの世界に人間が入るという発想は「トロン」など珍しくはないが、ゲームの中からキャラクターが出てくるというアイディアを、それほど不自然ではなく実現させたところはさすがIT大国インド。VFXやアクションも垢抜けていて、映画大国の名にも恥じない丁寧な作りである。
全体的には子役のアルマーン・ヴァルマーに持って行かれた作品だが、男女の恋愛だけではなく、家族の絆を描いた作品としても評価できる。この映像はやっぱりBDで見て欲しい。