思春期の頃,年上の女性に密かに寄せた淡い恋心。亡くして初めて知る父親の一面。片やトレードに出されたベテラン・プロ野球選手,片やリストラ進行中の会社に務める中堅会社員という岐路に立たされた2人の男の心境。輝かしい成績を残しながら家族愛のために突如プロ球界を去った男のその後。
野球をモチーフに,男なら誰でも経験するであろうほろ苦い思い出,挫折,郷愁などをさわやかに描いた短編集(5編のうち野球の描写が全くないものが1編ある)。素朴だが,素直に共感し胸に染みる傑作。
最近,ファンの意向を無視してプロ野球の枠組みを勝手に決めようとする傍若無人なプロ球団経営者がいるが,そんな人にこそ,この作品を読んで欲しいもの。プロ野球選手に憧れ,ただ無心に白球を追いかけた少年時代は誰にだってあったはずだし,そんな純粋な子供の夢はついえても,野球を愛する気持ちは大人になっても忘れない人が世の中にはたくさんいるはず。そうした人々が支えてきたのが今の日本プロ野球だと思うのだが・・・。こんな夢も希望もない殺伐とした世の中だからこそ,かえってまぶしく感じられる作品だ。
手が届きそうで届かない、すぐそこにあるメロディー。
人が生き、たった一度愛する誰かに語りたくもあり、
墓場まで持って逝きたくもある、切なげな場面の数々。
本当にこれから先、何度も読み返すであろう名作集である。
【
シチリア舞曲】、【秋日和】、【約束の手紙】、【真珠の便り】、
【接吻】、【夏の航跡】、、、、、
そっと心臓に息を吹きかけられるような、
名もない歌を頼りに、僕はあの人に感謝したい。。。。。
そんな作品が、いっぱいです。
舞台は近未来のプロ野球界。ある出来事をきっかけにして、プロ野球界再編成が始まるのである。昭和57年初版(文藝春秋)。著者は、またかつて読んだことのある読者は、今まさにそれが現実化していることに驚きを禁じえないのではないだろうか。この本ではプロ野球界の変動が、地方自治、政治体制、果ては文化まで変えてしまうという、まことに奇想天外、痛快なストーリーである。これを読まずして野球ファンと言えるかと言えるほどの内容である。小松左京氏の「首都消失」といい、この年代の作家の「未来を見据える眼」の鋭さには脱帽である。著者・赤瀬川
隼氏の略歴:「白球残映」で第113回
直木賞受賞。実弟は作家・画家の赤瀬川原平氏。本書は氏の処女作で、第4回吉川英治文学新人賞受賞。