今はもう見かけることもなくなった 駅前旅館の番頭さんがその世界で使われていた 独特の言葉から女中さんとの関係仲間内での掟 修学旅行生の扱いなどとても面白く語っています。
そして解説二つがその時代と旅館 井伏鱒二の文学についてあり 小説同様に読めました。
何の予備知識もなく読んでみました。 印象に残った作品の感想を書いてみます。
「山椒魚」 成長しすぎて岩穴から出られなくなってしまった主人公の山椒魚。 彼は岩穴から外の世界をのぞきます。 一匹では自由に動けない小魚の群れを見て 「不自由な連中だ」と感じますが、 彼自身が岩穴から出られない不自由な立場にあることを 棚に上げているのが哀れを誘います。 狭い世界に閉じこもり、孤独に過ごすことの寂しさや やるせなさがよく表れています。
「屋根の上のサワン」 小学校高学年向けの国語の問題集にも載る作品。 主人公の男は傷ついた雁を助けてサワンと名づけます。 男の世話の甲斐あってサワンは元気になりますが、 遠くを飛ぶ雁の群れを見て夜な夜な鳴くようになります。 男のサワンに対する愛情と、動物の習性に沿って行動する サワンの関係に注目。子供に読ませたい作品です。
「幕末太陽傳」が大好きなので その続編と言われる本作を見ることは長年の願いだった。今回DVD化されたことで漸く見る機会を得た。
原作者の井伏鱒二が激怒した事で有名となった本作である。原作は未だ読んでいないので比較しようがないが この作品はまず一筋縄では行かない傑作である。
「幕末太陽傳」という明るい喜劇に「主人公の結核」という隠し味を加えた川島監督の複雑振りが 本作にも十分に出ている。
一見 スラップスティックの どたばた映画のように出来ているが その奥には 相当の「毒」が隠されている点を強く感じた。 出てくる登場人物は 全て 滑稽な味わいながら 善人が殆ど居ない。これは「喜劇」という設定では中々有り得ない事であり その分 本作の味わいが奇妙で濃厚になっている。僕らは見ていて笑っているが だんだん 妙な底意地の悪さで 居心地が悪くなってくる。 主人公のフランキー堺も 「幕末太陽傳」の佐平次に非常に似た設定ながら 佐平次より遥かに内向的で 逃避的な姿勢が最後に色濃く出てきてしまう。それまでの颯爽とした活躍振りもあいまって見ていて はぐらかされた思いだ。
「サヨナラだけが人生だ」という井伏鱒二の訳詩の一節が 本作では繰り返される。川島の口癖だったとも聞く。その奇妙に明るい虚無感が 間違いなく この映画の基調になっている。 こういう複雑な味を持つ喜劇は余り見たことがない。それほど 衝撃を受けた作品となった。
こんなことってあるんだろうか?
初めて井伏鱒二の作品を扱って生徒に説明した時、彼の奥さんが亡くなり、そして今回は監督が亡くなった。
生徒には「黒い雨」の存在の大切さを知ってほしくて、私なりに色々話はしていたが、やはり監督の死により、連日報道された映画の偉大さの方が印象に残ったらしく、今度の選択授業で「黒い雨」を見ることになった。
「黒い雨」は、戦後六〇年以上たった今も、私達に伝えることの多い作品というわけである。監督の御冥福を祈りながら、鑑賞したいと思う。
黒い雨とは核爆弾投下された現場に降る高濃度放射能入りの雨のことです。 本当に黒くなるんです。かなりの部分が実話だそうです。 …偶然そこに居ただけで被爆してしまった方々の魂の慟哭が役者の名演技を通してテレビから心を揺さぶり続ける…核兵器がこの世から消えて無くならない限り。 一人の日本人としてこの映画を減点出来る人はどうかと思います。 ★五つ以外無のではないでしょうか。 今の国際情勢ではDVD化されないだろうなあ…永久に…。
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