オーボエの古部賢一とギターの鈴木大介のduoです。収録された全曲は2人だけで演奏されているわけですが、全く退屈しませんでした。
ブラジル人作曲家のセルソ・マシャド、
アルゼンチンのアストル・ピアソラの曲が多く含まれているので、前半は近現代ラテン音楽家の作品集という性格をもっているのでしょうか。
後半は、ラヴェル「ハバネラ形式の小品」、有名なフォーレ「シシリエンヌ」、セイシャス「『鍵盤楽器のためのソナタ集』~シシリアーノ」、チマローザ「4つのソナタ」、ヴィヴァルディ「ソナタ ハ長調」などを取り上げていました。クラシック音楽も2人にかかると新鮮な響きを伴って現れるようでした。
現代曲もクラシック音楽もそうですが、繊細な音楽もリズムを強調した音楽も、優れた音楽家の手になるとこれほど景色が変わるものなのか、という素朴な感想を持ちました。
それほど1曲1曲が輝いて聴こえます。奏者は同じなのに、奏法の変化もあるのでしょうか、全く違って聴こえるから不思議です。
音楽はメロディとハーモニーとリズムで構成されるわけですが、オーボエとギターだけで、その音楽の3要素を完璧に
仕上げられるという証明のようなアルバムでした。
冒頭のカルロス・ジョビンの名曲「イパネマの娘」は不思議な雰囲気の前奏から始まりました。思わず曲名を見返したわけですが。鈴木大介の編曲の冴えでしょうか。
オリジナル曲とは微妙なハーモニーの変化を付けていますので、ボサ・ノヴァなのに現代のクラシック音楽のような香りが伝わってきます。古部賢一の柔らかい音色が良い意味で気だるさをもたらしていました。
2曲目以降のマシャド作曲の「夜のサン・パウロ」「ヴァモ・ネッサ」「
サンバマール」「涙のないショーロ」を初めて聴きましたが、魅力的な音楽を紡ぐ作曲家です。セルソ・マチャード(Machado, Celso)という標記で語られることもありますが。メロディ・メイカーですから、聴き飽きることはありません。軽やかなリズムの刻みと和声がラテン音楽の魅力を伝えていました。
「涙のないショーロ」に代表されますが、魅力的なメロディと音楽の変化がリスナーを楽しませてくれました。
ピアソラの音楽は説明不要でしょう。「リベルタンゴ」もリズムの切れ味が魅力的でした。激しさの中に抑制された音楽美が感じられる演奏でした。duoですので、メロディとオブリガードの交替が面白く伝わります。
「オブリビオン」の演奏の美しさは格別でした。名手の冴えが凝縮されて現れているようでした。
エンリオ・モリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス」では、この曲が持つ懐かしさと寂しさがダイレクトに伝わってきます。鈴木大介の編曲が和声と構成に変化を付けていますので、味わいが代わり飽きません。ただの美しい音楽ではないという主張も伝わってきました。今後、このduoで様々な違うジャンルの音楽を聴きたくなる思いが募りました。それを触発させる音楽でしたので。
古部賢一は、「東京藝術大学在学中に新日本フィル首席オーボエ奏者に就任」したという実力の持ち主です。これほど伸びやかで甘い音色のオーボエは中々聴くことが出来ません。高音の響きの美しさは格別でしょう。宮本文昭が引退した今、代わりにその位置を占めて欲しい奏者だと評価しています。
鈴木大介も以前からアルバムを通して、関心を持って聴いているギタリストです。いずれの演奏でも感じられますが、ここまで安定した音楽を聴かせられるのは、円熟味を増した技量があればこそですが。アルペジオの滑らかさ、ピチカートの透明感、旋律の浮かび上がらせ方、何れも一級品の演奏でした。
2013年12月17と18日、2014年1月7日に収録されていました。