設定も登場人物の年代も性格も様々だけれど、自分が人生のあるひとときに、あるいは明日お茶をする約束をしている友だちが今まさに経験していたとしてもおかしくないような恋の話が7篇。
それぞれの恋は何か特別な波乱に満ちているわけでもないし、ドラマチックな事件が起こるわけでもない。登場人物たちは特別に目立った行動をするわけでもなく、ごく常識的な人物として日常を生きながら、でもちょっとした片思いの痛みを抱えている。痛みのさじ加減の描写が、リアルでいい。読後、しばらく時間が経過してから、じわじわ効いてくるような苦しさやおかしみがある。大恋愛の末の、胸が掻き毟られるような苦しみを伴った大ケガではないけれど、そういったカタルシスの体験がない分、ずっとジクジクとした傷になってしまって尾を引く恋の傷。
例えばこんなくだり。(以下、本文引用します。ネタバレご注意!)
“あの人の彼女を、一度だけ見たことがあるんですね。(略)普通の人でした。(略)普通で、というかむしろ、わたしに似ているような気さえしました。だから、やだな、と思いました。それってきっと、やさしいとか心が休まるとか、内面に素晴らしいところがあるってことじゃないですか。わたしはだめで、彼女にしかない、やさしさがあるってことじゃないですか”
“勝手に誰かを好きになって勝手にその子供を産んで、かわいがったりかわいがらなかったり。わたしは生まれる前から、好きだの嫌いだののいざこざに巻き込まれていたってことだ。まあ呪いみたいなものだよね、好きな人の子供を産みたい、なんて気持ちは”
“なんでみんな、そんなにややこしい感情を、わざわざ持とうとするんだろう。(略)羨んだりねたんだりもしないといけなくて、思いが通じたら通じたでいつ失うかとおびえて、周りの人間関係も複雑にして”
恋をすることは素晴らしいという風潮があるけれど、本当にそうなのか。キレイごとじゃない片思いの苦しみを、恋をしたときのキレイじゃない感情というものを、節度を失わないくらいの品のある毒で吐き出したようなくだりが、私がこの作品集に登場する人たちに惹かれる部分かもしれない。いい子ぶりっこじゃない人に対する信頼感みたいな。お茶でも飲みながらペロッと毒づいて一緒にケラケラっと笑うことができそうな、そういう人間のリアルがなんとも素敵だと思った。
ある日の夜、正道くんという男子の
引越しの手伝いとお祝いに集った何人かの男子と女子を中心に描かれているお話。5つの話があるが、どの話も
タイトルどおり、その日の出来事が日記のように描かれている。だから、その時その時の登場人物の気持ちや情景が分かりやすい。
しかし、どの場面が面白いとか、せつないとかという、興味を引くところはあるわけではなかった。ただ、単調に思い出話や登場人物の気持ちの動きが流れていくという感じがする。
暇つぶしに読むには良い一冊かもしれないと思いました。例えば、電車の中や、待ち合わせ場所で時間をつぶすときなどに。
聞けば、この「きょうのできごと プレミアムセット」は、本編のDVDと、「きょうのできごとというできごと」の2つがセットになっているという話ですが、その2つともそれぞれ見応えがあるものだと思います。
本編の方に関して申し上げますと、浜に巨大鯨が打ち上げられた、とか、ビルの間に挟まった人を救助隊員が救助しようと孤軍奮闘、とかいう話もあるそうですが、正直なところをいいますと、そういう話はあまりこのようなストーリーには向いてないと思います。なぜなら、こういう「日常を綴る」物語にこういうものを詰め込むと、突然「非日常」のお話になると思います。確かに、鯨やビルに挟まった人の話を入れることによって、原作の小説からの差別化を図る、という意外に重要な役割を果たしているものと思いますが、いくら何でも鯨はないと思います。こういうことを詰め込むとなると、ありふれた、ニュースに出てきそうな話の方がよかった気もします(さすがに殺人事件とかを入れるわけにはいかないでしょうが)。
なんだかんだいっても、かなり前から注目している映画だったので、今これを書いているのが7月なのですが、発売、楽しみに待っています!!