本書は、右肩上がりで増え続ける
歯科医が今やワーキングプア化している背景について、昨今の医療改革までの変遷をたどりながら、筆者ならではの取材を通じて
歯科医の現状が浮き彫りになってくる。その上で、
歯科医を目指し
開業したいという方にとって、歯科大学の現状、
インプラント整形技術の行方やコンサルタントやケアマネージャーとの付き合い方に至るまでの指南書として活用できるだろう。すべての
歯科医必読の書といえるだろう。
厚労省の無策の象徴として本書でも取り上げられている「指導医療官」の存在は強烈だ。厚労省は、レセプト一枚あたり高い点数を付けている医療機関に、指導医療官を送り付け、「個別指導」と称し難癖をつけ保険適用される医療費を自発的に萎縮させていくよう仕向けているというのだ。指導医療官の「個別指導」の様子は、怒鳴るなどの恫喝にはじまり、果ては医師を自殺にまで追い込む最悪なケースが生まれている。(38p)更に問題なのは、その指導官を抱き込むための贈収賄事件にまで発展している。(49p)もうこうなると悪循環だ。
「問題は、患者さんに対して本当に必要な治療ができなくなってしまうこと。集団的個別指導(指導医療官を含む)に呼ばれると、翌年はどうしても点数を抑えることを意識せざるを得なくなる」(34p)と
歯科医師会幹部さえも嘆く。
医師の自殺という最悪な事態も、まっとうな医療をと訴えても厚労省は、医療指導官の見直しはないという。
藤枝市総合病院の「不正請求」事件もその事とは無関係ではないことを紹介している。顎の骨を整える保険適用範囲がグレーなものを治療し、レセプトを申請したところ、保険適用外とみなされ故意ではなくても5年間の休診を余儀なくされた事件に発展した。(70p)地域医療が御上の医療改革の掛け声でつぶされていくことは、その街の心臓部をえぐられているに等しいことを知ることになる。
また、最終章の高齢化する地域
歯科医療の実態について紹介しているのは非常に印象的というか、私が住んでいる地域ともリンクしてくるので非常に興味深く読ませてもらった。郊外の住宅街では、今や「コンビニより多い」とされるはずの
歯科医も、従来のような商店街は高齢化と共にシャッター通りとなり最近流行りの郊外型デパートの中にあり、デパートまでは優に車で30分もかかる。その中に、スーパーや歯科まで必要なものがあるにはあるのだが、そこに一体どれだけ足腰の弱い老人が辿り着けるというのだろうか?
この風景の中で地域と共にあるライフラインの一つとして、地域の再生に欠かせないものとして、
歯科医もまたある事に気づく。その答えは、
歯科医が地域の中に事業を難局を乗り切りながら本書中に登場してくるので読んでいただければと思う。
本書は、その点だけをとっても十二分に『残る
歯科医』のヒントが盛り込まれている。