素晴らしい作品が詰まった短編集とめぐり合った時、これはまさに至福の一時である。ゆっくりと一品づつ堪能するもよし、一気にかき込むもよし!
この短編集はまさに逸品だ。『プールサイド小景』『静物』などの短編の粋が集まっている。まあ、個人的には『蟹』が舌足らずでドタバタしてるかなという印象がありますが、他は文句ありません。
しかし、下手な実験とか過激な描写を用いなくても文学が成立するもんなんですなぁ。
交差点にたどり着いたとたんに横断歩道の信号が赤に変わった時、なんとついていないことだと腹立たしく思うか、やれやれここで一休みと余裕をもって周囲の景色に目をやるか。たとえばこのような取り立てて言うほどのこともない日々の出来事への態度の違いが、俗に「生活の豊かさ」などと言われている境地を心底から味わえるかどうかの境目になる。ただしそこには体力の衰えというものが大きく影響しているに違いなくて、老いをまさに身をもって体験している者にしか判らない心の淡泊さというものもあるのだろうが、それもまた人様々である。要はそういった「等身大」の感覚や思考や感受性を、気が遠くなるほどに長くしかしあっけなくも短いはずの人生の積み重ねのなかでどこまで鍛錬し研ぎ澄ますことが??きるかにかかっている。──「夫婦の晩年を書きたい」。齢七十を越えた庄野潤三氏の「湧き出る泉」のような気持ちは、年に一冊という、はやりの言葉を使えば「スロー・ライフ」そのもののペースで営まれ語られていく生のかたち(大切な事は何度でも飽きることなく反芻する)となって結実している。その文学的達成は、もしかすると前代未聞のことなのではないか。本作は『貝がらと海の音』『ピアノの音』『せきれい』に続く第四作目。
この本が、あの須賀敦子さんの初伊語訳作品とは後になって気がつきました。須賀さんの御本も追悼特集本も持っているのに。 読み終えて、なるほど細部が描かれていて、しかも温かい家族の愛情が伝わってくる。須賀さん好みの作品でした。今ではもう大人になった娘さん息子さん達の幼かった頃のエピソードが詰まっていて(私は最近の本から先に読んだので)「ああ、こんな子供時代を過ごすとあんな家族思いの立派な人間に育つのだなあ」と感心し、これは子育て中の友人にも勧めたい作品だと思いました。庄野さんと奥様は素晴らしい!!
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