1996年に「十二年籠山行満行」を迎える前の著者にインタビュー形式で聞き書きした、「千日回峰行」を含む「十二年籠山行満行」のすべてが一冊になっている。本書はその8年後に出版された増補新装版である。
千日回峰行にいたるまでの著者の半生は、あくまでも個人史といった側面が強いが、自利行としての700日の回峰行を終えて入る「明王堂参籠」の断食・
断水・不眠・不臥という超人的な九日間の修行は、語っている本人はきわめて冷静で、あたかも何でもないかのような口調で語っているが、その内容は凄まじいの一言に尽きる。工学系のバックグラウンドをもつ大阿闍梨だけに、自らの身体の変化をあたかも実験の観察記録のように再現してみせるのだが、これは実に貴重な記録といってよいだろう。
「明王堂参籠」の断食行という折り返しのあとは、300日の利他行としての回峰行は、800日台の赤山苦行、900日台の
京都大廻り・・と続くのであるが、その詳細については、著者とともにたどることとなる。
私はこの本を読むまで、千日回峰行は、一年に100日づつ行うものだとは知らなかった。とにかく何があろうが100日間ぶっつづけで行うことだけでもすごいのだが、歩くことは目的ではなく、あくまでも利他行としての仏道修行の手段に過ぎない。
「千日回峰行」とはいったい何か、そのもののディテールを知りたい人は必読である。もちろん、一般読者であるわれわれは、著者の語るところを、活字を目で追いながら追体験するのみではあるが、しかし凄まじい体験をひょうひょうと語る大阿闍梨には感歎するばかりである。