どうしても専門書となると,読んでいる途中で投げ出したくなったりすることってあります.私もそういった経験にはこと欠きませんが,そんな中でこの本は適度に主題以外の話が入れられていて(脱線しすぎて時々結論がなんだかわからなくなることもある),いい具合に読み進めることができました.分量も342ページ(実質はもうすこし少ない)で,かの”ワンダフルライフ”と比べればずっとサクサク読める本であり,普通に本を読まれる人には丁度良いものだと思います.文庫版が出版されれば良いのですが…
ただ,やはり化石が主題なので地学的な知識を持ち合わせていないと実感が薄れてしまうところもあります.
三葉虫に対する私の第一印象は
「絶対、生き物ではないだろう、工業製品だろう?」
というもの。それほどまでに機能的・流麗に見えたのであるが。本書を読み、目や器官の造形を見るにつけ、生物離れした合理性に、
「どこのタイムトラベラーが造った?」
と思われてくるのである。本自体は、高額で分厚いが、
三葉虫に対する愛情があれば苦にならない。
カンブリア大爆発で世界の海を制した生物、
三葉虫。
最近ではネット
オークションで化石を入手しやすくなり、
興味がでてきたので、思わず本書を買ってみた。
化石の写真がふんだんに掲載されているのはいいのだが、
残念だったのは、すべてモノクロ写真だったこと。
この価格帯なら、ぜひカラー写真での展開を望みたい。
英国のインテリはかくも分厚い知識と鳥瞰的なものの見方が出きるものかと感心します。表題の
三葉虫の形態はもちろんのこと、
三葉虫を軸にいろいろな分野への言及がなされます。その内容は古生物学の発展から、進化論のミッシングリングを謎を解く学説を実証することや、示準化石クロノメータとしての役割、同じ環境での同型進化におよびけっして読み物にとどまりません。また、この最新の内容が引きつけられるような文体で非常にうまく解説されてことにも感心します。ハーディの小説ではじまり、シェークスピアなどの引用も各所にちりばめられていて、この本をさらに魅力あるものにしています。この水準の一般科学書はローレンツ以来でしょう。分厚い内容の科学書です。