この小説を読んで、何とも言えない感慨に打たれた。私が生きた10年前に、何という豊饒な学生生活があったのだろうかと。
K高校、1969年。少年少女は勇ましく、「制度」に対する疑問、不満を学校、ひいては世界にぶつけてゆく。第1章から第3章はそんな生き生きとした青春群像である。
ところが。
第4章になると、文章世界はがらっと変わる。・・・中島
みゆきが、いみじくも傑作「時代」で唄ったように、かつての戦闘家たちは平凡な暮らしに落ち込み、年老いた親の介護に追われている。唯一、反体制の戦いを続けていたヒロイン、真生子は病に侵されてゆく。
それでも、真生子がフェイスブックに残した最後の言葉が、「いつの日も泉は湧いている」であった。
おそらく、この世代の人の魂の奥底で、「基本的人権を踏みにじることを許すな(本文より)」というスピリットは、永遠に鳴り響いているのだろう。
日本が大きく変わろうとしている今、もう一度、この「泉」を湧き立たせたいと言う作者の強い祈りを私は感じる。・・・反戦に、散って行った友人たちへの鎮魂の書。