本書の中で、中心的に扱われている鎌倉芳太郎については、全く知らなかった。それだけに、その人生に対する驚きも大きかった。さらに、それも含め沖縄(琉球)に対する多くの人々の強い思いにも心を動かされた。
報酬なども含めある程度実利的な部分もあって、沖縄にやってきた鎌倉が、その洗練された文化とともに人々の温かい心性にふれることによって、どんどんと沖縄に魅せられていく姿が、説得力を持って描かれる。また、彼を取り巻く様々な人々、時代背景にも過不足なく触れられており、沖縄の状況も理解しやすい。また、不遇の時代を経て、
紅型作家・研究者として鎌倉に脚光があたり、「人間国宝」に指定されたこと、「返還」された沖縄への訪問、劇的な再会などは、ドラマチックだが素直に心に入ってくる。事実がはっきりしない部分も、明らかに著者の推測であると分かるように書かれていることにも好感が持てる。
なお、私事で恐縮だが、本書の中に登場する人物の一人と仕事の関係で僅かだが接したことがある。ただ、その人が沖縄人として、どういった人生を送ったのかまでは知らなかっただけに、その人生について知ることができたことも感謝している。
かなり以前、著者の本を読んだことがある。その中には、本書でも描かれる1995年の事件について書かれた文章もあった。ただ、その読後感を書くと、かなり冷めた目線に鼻白む思いだった。読者である私を“白けさせる”ものだったのである。しかし、時の経過が著者を変えたようである。本書はその事件も含め全く違った印象である。全体に抑えた筆致でいながらも、その向こう側に著者の“熱い”思いを感じさせるのだ。
沖縄出身者ではないものの、沖縄の人々を、その地を、人々が培った文化を強く愛することができた鎌倉芳太郎が、極めて羨ましく思われる。