帯にある通り、アナウンスの技術や話法の解説、心構えが中心。アナウンサー、放送業界志望の学生には役立つだろう。言葉の誤用、敬語など一般の人に役立つ話も多い。だが、アナウンサー志望者には有用でも、一般には「ちょっとどうかなあ」といものがいくつかある。
例えば鼻濁音。自分も使うが、強調されると耳障りな響きで気持よくない。「4代目=よだいめ」などの読み方もまあ、アナウンサーのみに義務付けられた読み方のような気がする。アクセントも著者の言うように、知っていて損はない。ただ、ほぼ関東圏で生活しているだろう著者には理解が難しいかもしれないが、異なる方言圏から来て、違うアクセントを体得するのは相当に大変。逸見政孝さんの例を本書は挙げていたが、アクセントで怖気づいて喋れなくなっては意味がない。「『御社』は好きではない」というのも好き好きのような気がする。
そして、発売直後に話題になっていた「女子アナ」批判。テレビ志願者とワンセットでダメ出しされている。「メディア就職を希望するのに、新聞も取ってない、読んでない。テレビも見ない」というのは確かに呆れてしまう話ではある。新聞を読んでいないと、ニュースバリュー、
相場観が育たない。メディアで飯を食うのにそれはどうかと。特にアナウンサーはニュースを伝えるのに、理解していなければダメだと。それはその通りだと思う。著者が教えた発音規則を無視して喋っている「女子アナ」が多い、と著者は嘆く。
考えこんでしまったのは、TBSの面接で「どんな番組が好き」という質問だ。他局番組を出すのはアウトというのは分かるが、「『どうぶつ奇想天外!が好き』もアウト」というのは厳しい。「2年前に終わったからだ」という。水戸黄門もダメだな。そうすると、高齢者の大半はTBSに入社できない。しないからいいけど。自分だったらどうかなあ。「放映中」という縛りだと、「さまぁ〜リゾート」「深夜の馬鹿力」。どっちも面接で顰蹙を買いそうだからアウトか……自社制作じゃない「情熱大陸」も。やはり手堅く「世界遺産」「世界ふしぎ発見!」「報道特集」と答えるべきなんだろう。終わったものでも良いものは良いと思うのだが。面白いタマが少ないと、答える就活生も大変だ。今年は「倍返し」で行けそうだけど。
CBSドキュメントでの掛け合いをよく見ていたので、著者には決して悪い印象はない。しかし、アナウンススクールの校長先生、防犯団体の広報委員長などお堅い肩書も多い、優等生タイプの著者ゆえか、ちょっと若い人に手厳しいかなとも思う。若い人を多く見て、指導してきた著者だから、尚更そう感じるのだろう。人に厳しい分、著者は自分にも厳しいし、男社会と戦い続けたのに、後に続く女達がだらしなければ、腹も立つのだろう。しかし私には、「最近の人は…」という雰囲気が目について、ヒネた読評になった。「デブは喪服もサスペンダー」というのが、TBSの社風と思ったが。
採用直前の発売というのが、TBS志望者に否が応でも「読まないと」感を募らせる。TBSで運良く一次試験を通過した人は、本書にアンダーラインを引きまくって熟読して、面接に臨むのだろう。「本命TBS」という人は、面接でボッシュートされないように、本書で研鑽を積んで頂きたいものである。