銀座を舞台にした“逆・細うで繁盛記”。「銀座」「立身出世」「男たちの欲望」「女同士の確執」等々、大衆受けしそうなアイテムを駆使しつつも、そこは松本清張のこと、当り前のサクセス・ストーリーになるはずがありません。「悪女小説」的な前半から、後半の意外性に満ちた物語展開(僕はカトリーヌ・アルレーの『わらの女』を連想しました)で読ませます。リーダビリティの高さは、著者の数ある長編の中でも上位にランクできるのではないでしょうか。
尾崎秀樹は本書の解説の中で「ミステリーではない」と明言しています。確かに謎に満ちた殺人事件が起きる訳ではないのですが、ヒロイン元子がのし上がっていく過程はスリリングですし、後半、彼女に対して張り巡らされた罠の巧妙さ、大胆さは、ミステリならではの面白さが満喫できます。それにしても、著者のヒロインを追い詰めていくやり方は、半端じゃないですね。ラストの落ちも、ここまでくると怪談です。
著者の後期作品の中で、特に人気が高いのも頷ける出来栄え。サスペンス小説の面白さに満ちた佳作です。
謎解き部分までは確かに面白かった。犯人の見当がついてくるところからは、意外性が欲しかった。予想通り「その人」を犯人にするにしても、肉親やかつての恋人に殺意を抱くようになるまでの苦悩をもっともっと描いて欲しかった(その人が演劇でやるような哀愁が見え隠れする表現を期待する人もいるのだから)。それと重要人物を絞り込んでいないためか(何もこのサスペンスや
スタッフに限ったことではないのだが)、伏線が回収しきれていないのが惜しい。
女性が美しく着飾り、それを男性が酒とともにめでる、自然なことでそれを理解し商売にしている女性は賢いと感じた。が、それ相当の危険、落とし穴もある。
本書に登場する元子は元銀行員。男性優位のお堅い社会の職場から一転、夜の水商売に三十路を超えて入っていった。私は別にお堅い職場で働いていないが三十路を超えていることもあり元子の考えも女性ととして共感できる部分が多々あった。とても約20年前の話とは思えないリ
アリティがあって面白い。
元子の経営するバーに来店してお金を落とす男性には医師などお堅い職業の人たちがいる。普段の仕事をしている自分の精神のバランスをはかるために派手な遊びもするという話のくだりもあり、男性心理の一端も覗けた面白さもあった。
元子はパトロンを持たずに自ら得た知識、知性を武器に華麗に資金を獲得しバーを切り盛りし次の野望へと計画を練っていく。そこがまた魅力的に思う。しかし、いつ誰と色恋沙汰になるかなどそんなハラハラする展開もあり、元子の考えの行方とともに非常に気になる。
下巻もテレビドラマの方も行末が楽しみです。