ネルソン・マンデラ氏が提唱した、エイズ撲滅のためのベネフィット・コンサート。
今をときめく歌姫・ビヨンセ、ライヴ・エイドの発起人・ボブ・ゲルドフ、アフリカの雄・ユッスー・ンドゥール、イギリスの重鎮・ピーター・ガブリエル、常に社会問題に投企し続けるU2のボノとエッジなど、重要人物はすべて参加しています。
しかし、なにぶん、参加アーティストの音楽性が広いので、全部の音楽に興味をもつことは不可能です。一回ざっと見たあとは、自分のお気に入りのアーティストを選んで見るしかありません。ちなみに、ビヨンセは一曲のみ。クイーンは、女性のアナスタシアがヴォーカルを取っています。
ライヴを見ていて気になったのは、ひとつまちがうと危険な全体主義的な趣向です。各アーティストがマンデラ氏に敬意を表して彼が囚人時代につけていた番号を「46664」を連呼する場面がいくつかあるのです。でも、こういう英雄崇拝、個人崇拝は、観衆にエイズ撲滅のために一致団結を呼びかける目的もあるとはいえ、エイズに苦しむ名もなき人々に救いの手を差し伸べるというこのライヴの目的に反しているように思いました。
さて、ぼくが感動したのは、ライヴ本編よりも、おまけ映像のなかで、ボノとビヨンセがエイズ感染者もいる産院、孤児院を訪れた時の模様を悪い画質ながら収めた映像です。ボノはともかく、ビヨンセが通常の接触では感染しないということをよく理解し、冷静に行動している点に感動しました。科学的安全を超えて情緒的な安心を求める日本のポップ・スターではなかなかできないでしょう。そのほか、エイズの現状について知るには有益な
ボーナス映像がいいですね。
もう20年以上も前の作品(1991年)だし、当時彼らがテーマに取り上げたのが60年代ポップスだったとしても、この作品自体の持つ価値は決して損なわれることはないだろう。
スチュワート&ガスキン夫婦のアレンジ力、構成力、フィーリング、そして何よりも演奏パフォーマンスの凄さ、音楽的引き出しの多さには舌を巻く。さすがブリティッシュ・トラッドとカンタベリー音楽の代表!これぞ超一流のアーチストの仕事であろう。
全編を通じて、彼らの創造的原点であったビートルズやバーズ等60年代ロック&ポップスへの深い愛情と造詣を感じざるを得ない。単なる懐古趣味ではなく、アーチストとして、60年代音楽を原点から見直そうという真摯な探究心とエネルギーには感服してしまう。
彼らにとって、60年代とは言わば、あらゆるものの革新の原点である。おそらく、時代は周期的に同じようなことを繰り返しつつ螺旋(スピン)状に少しずつ前に進んでいく、ということなのだろう。このアルバムには、そういったポジティブな歴史観が一貫して脈打っている。
おなじみの「ディヴ・トーン」と称される独特なオルガン・サウンドは、今回はかなり控えめなのが、ファンとしては少し残念だ。しかし、楽曲の端々に隠し味的に披露される「60年代フレーズ」には思わずニヤっとしてしてしまう。
バーズのロック史上に残る「霧の8マイル」など、原曲の持つドラッグ色を超えて、来るべき未来の音楽として、楽曲に新たな生命を吹き込んだ感が強い。
特筆すべきカバー曲をもう一つ、ジョニ・ミッチェルの「アメリア」(1976年作の名盤「逃避行」の2曲目に収録)。これのみ70年代ものである。モノトーンに乾いた味わいのある原曲も秀逸だが、ほぼオリジナルに忠実なアレンジに仕立てながら、紛れも無いスチュワート&ガスキンの作品に
仕上げてしまう技量と自信にあふれた演奏には鳥肌もの。
あらためて、バーバラ・ガスキンの歌声の守備範囲に広さに感動しました。そんなわけで、英国女性ヴォーカル・ファンの皆さんには強くおすすめします。