歌唱力はもちろん、作詞、作曲を手掛け、他のたくさんのアーチストへの楽曲の提供、そして俳優としても高い評価を受けている玉置さん。幼少からのエピソードから、様々な活躍にまつわるコメント(ご本人やご両親からのなど)からも、玉置さんのルーツなど知ることが出来る。現在の活躍にうなづけるものである。著者の志田氏は、何年にもわたり、玉置さんの傍でこの著書の準備を進めてきたという。とても信頼のおける素晴らしい本にめぐり会えた。
歌唱、演奏、アレンジ…何をとってもあまりの素晴らしさに唸ってしまう。だけどこれだけではこの作品の真の凄さの何パーセントも語っていません。技術的な素晴らしさを全て削ぎ落としても、そこには作り物ではないリアルなもの、本能的、即興的、瞬間的な熱と魂と感情があります。
メジャーデビューから10年を迎えた安全地帯は非常に高いレベルまで登りつめていたものの、時代の波や特に玉置浩二が抱えていたジレンマのためにバンド内には張り詰めた緊張感が生じていたと推察されます。そしてツアー最終日であるこのライブを最後に彼らは長い活動停止期間に入ります。私の勝手な想像ですが、このとき玉置浩二は、先に進むにしても一からやり直すにしても、とにかくそれまで築き上げてきたものを自らの手で徹底的に壊したかったのではないかと思うのです。そしてそれをこのライブで見事にみせてくれた…画家が本能のままに即興的に絵を描き上げ、一瞬にして壊していく、そういう一連の過程の美しさ…少なくとも私はそんな美しさを感じました。こんなことを考えていると、彼らにジレンマや緊張をもたらしたこの10年間は、この一瞬の芸術作品を作るためのお膳立てであったかのような錯覚すら覚えます。もちろんそんな訳はありませんが、この作品には、10年かかって生み出されたある特異な状況があったからこその、極めて重要な芸術的要素が含まれていると思います。
曲の合間では玉置浩二の理性的な面がみられますが、それがまた、歌っているときの爆発的な激しさのリ
アリティを高めます。彼はのちに「ステージの上で戦ってる感じだった」と語っていますが、ラストの「あの頃へ」から静かに降り始めて退場後も延々降り続く紙吹雪と、エンドロールのBGM「ひとりぼっちのエール」は、まさに美しく激しい戦いの後の情景にふさわしく、何かとても芸術性の高い映画を見たような気分になって胸が熱くなりました。