今から十七、八年前にもなろうか、創元社の「日本
探偵小説全集」で「痴人の復讐」「恋愛曲線」他の不木作品に始めて接した時の衝撃は未だ忘れ得ぬ。医学者としての博識とルヴェルやポーの影響色濃い怪奇趣味が混交した作品は静謐な狂気を孕んでいる。当時は不木単独の作品集が無かったため、不木作品が収録されているアンソロジーや初出誌を東奔西走して渉猟したのも懐かしい思い出だ。本作は不木の代表的短編がほぼ網羅されており、嘗て血眼で不木作品を収集した私の労、その轍を踏むことなくこの一冊で鬼才の世界を堪能できる今の読者は幸せ者という他ない。乱歩や横溝に比して一般にそれほど膾炙してるとは言い難い作者ではあるが、一度この不木ワールドを覗きこんだが最後、決して逃れ得ぬことは保証する。是非ご一読あれ。