この映画が製作された1928年当時これほど極端なクローズ・アップを多用した前衛的撮影は前例がなかった。当時の人々に全く理解されなかったのも頷ける。このDVDの画期的なのは、撮影当時の一秒間20コマの回転数に戻して収録している点だ。正常な回転数で見ることによって、ファルコネッティの真に迫った顔の表情がいっそう胸に残る。
撮影したのはルドルフ・マテ。彼はこの後、ドライヤーと「吸血鬼」という怪奇映画で再びコンビを組み、トーキーの時代に入ると数々の名監督たちの撮影を手がけてゆく。フリッツ・ラングの「リリオム」(後にミュージカル「回転木馬」としてリメイクされる)、ワイラーの「孔雀夫人」、
ヒッチコックの「海外特派員」、アレクサンダー・コルダ監督ヴィヴィアン・リーとローレンス・オリヴィエの「美女ありき」、エルンスト・ルビッチの「生きるべきか死ぬべきか」、ハンフリー・ボガード主演ゾルタン・コルダ監督の「サハラ戦車隊」、チャールズ・ヴィダー監督リタ・ヘイワース主演の鮮やかなテクニカラー・ミュージカル「カバーガール」、同じコンビで「ギルダ」などなど。「裁かるゝジャンヌ」ほど強烈な表現はその後は見られないが、時に俳優のクローズ・アップになるとぞっとするような妖しげな異彩を放つのはこの人ならではの魅力だろう。ドライヤーは「不思議なインスピレーションの力によって表情が変わっていく様を撮る行為ほど気高いものはない」と語るほど映画の中で人間の顔を重要視した監督だったが、マテが彼から何を学んだか、ということを考えながらこれらの映画を見るのは大変興味深い。残念なのは、監督に転じてからのマテは不遇に終わり、これといった成果をあげられないままB級専門の監督として生涯を終えた。