「篤姫」の優れている点は脚本の緻密さである。大河ドラマは1年間、全50話という非常に長いドラマである。民放のドラマの4倍であり、物語の前半と後半では舞台や状況が大きく異なってしまうことも多い。
特に大河ドラマは歴史上の業績のある人物の一生を描くことが多い。少年時代と老年時代では本人も周囲も社会も大きく変わっている。歴史的な偉業を成し遂げた人は人生の変転も大きい。このため、一つのドラマとしての統一性・一貫性に欠けてしまう危険がある。
篤姫の人生も激動の人生であった。薩摩藩主・島津家の分家である今和泉家・島津忠剛の娘として生まれながら、薩摩藩主・島津斉彬の養女となり、徳川家定の御台所となる。
明治維新では江戸城無血開城のために大奥を立ち退くことになる。特に薩摩の少女時代と将軍家への輿入れ後では環境が大きく異なる。
しかし、本作品は異なる環境で新しい話を進めるのではなく、過去のエピソードが新しい環境においても活かされている。最終話のサブ
タイトル「一本の道」は於一(篤姫)が斉彬の養女となる際に女中・菊本(佐々木すみ江)が語った「女の道は一本道」から来ている。
戊辰戦争に際しては幾島(
松坂慶子)が再登場して天璋院のために行動した。さらに
西郷隆盛(小澤征悦)に江戸総攻撃を思い止まらせたのは、天璋院が勝海舟(北大路欣也)に託した斉彬の手紙であった。また、最終話では天璋院は薩摩から来た母親・お幸(樋口可南子)と兄・忠敬(
岡田義徳)と再会する。
京都に戻った静寛院(
堀北真希)や、大奥を離れた滝山(稲森いずみ)、重野(
中嶋朋子)らとも再会する。
人との別れとは、小松帯刀(
瑛太)の台詞にある「また会う楽しみのために一時離れ離れになること」であることを物語が実証した形になっている。過去が現在つながっており、波乱の人生を上手にまとめた作品として高く評価したい。
大河ドラマの原作を読むと、テレビでは省かれている点や、演出の都合で新たな人物が登場していたり、補足になります。今和泉の父にも側室がいたのか・・・とか。この一冊でドラマ半年分の脚本を書いた作家には驚きます。