若き日のチョン・キョンファ、これは鮮烈なデビューだった。のめり込むような音楽への専心はそれだけで人を惹きつけるものがあった。庄司紗矢香の演奏を聴いていると、ふとその頃のチョン・キョンファのことが脳裏をよぎる。硬質な、すさまじいパワーのチョン・キョンファに対して、庄司紗矢香はより柔軟でパワーも「標準的」(けっして「足りない」わけではない)かも知れない。しかし、チョン・キョンファと庄司紗矢香、両者の音楽への専心ぶり、持って生まれた天才的な感性には共通点があるのではないか。そしてなにより、その自信に満ちた音楽への向き合い方には若手ということを忘れさせる一種の威厳すらある。
さて、指揮者チョン・ミュンフンに、姉チョン・キョンファと庄司紗矢香との比較演奏論を聞いてみたい気もするが、このバックはよく独奏者の個性をだそうと併走していて好感度である。チャイコフスキー、メンデルスゾーンともに佳演だが、前者のほうが自由度が高く演奏が伸び伸びとしている印象がある。この自信に満ちた疾走感に浸りつつ、いずれをチョン・キョンファに比類する、あるいは超える大物に育ってほしいと感じた。この段階で飛び切りの有望株と評価したい一枚。2005年10月、
パリでの録音。
とかく、ブラームスというと、剛毅だとか、晦渋だとか、重々しい音楽と思われがちですが、指揮者、ビシュコフの手に掛かると、なんと素晴らしい、美観と感動いっぱいの音楽となるのです。第一番についていえば、第2楽章の印象的なヴァイオリンソロ、そして、甘味いっぱいの第4楽章、こたけでもビシュコフ・ファンになってしまいます。
更に、
ボーナス編では、
英語ですが、ビシュコフのユーモア溢れる人柄を垣間見ることが出来ます。
薫くん4部作の最終作で、これ以後エッセイは別にして、現在のところ庄司薫は、作品を発表していません。
今回、薫くんは、親友?の高橋君ー一度だけ
フルートの伴奏で付き合っただけ。薫くんは殆ど忘れていたが、高橋君は、彼の伴奏は非常に良かったと感謝していたらしいーの自殺事件が、週刊誌の記者に嗅ぎ付けられ、記事にされそうなので、会って話を聞いて、何とか記事にする事を阻止して欲しいという高橋君の母親の依頼で
新宿に出向く事になるんです。そこで、我が薫くんは、淡いダンガリーの上下に薄茶のサングラスをかけ、麦藁帽にサンダル、昆虫網を小脇に抱え、しかも八の字髭を付けるという珍妙ないでたちで、
新宿に出かけます。そして、そこで記者に会い話を聞きます。また、同時に高橋君の関係していた葦舟の仲間にも会い、色々話を聞きます。やがて、高橋君の自殺〈未遂?〉の背景、そして、高橋君の葦舟での実像が、徐々に解明されていきます。
今回の話は暗い!前作?の黒頭巾では、薫くんの少し上の世代の挫折、転向を描いていましたが、今回は、薫くんの同世代の挫折です。大人と薫くん世代の対立ではなく、薫くん世代の仲での矛盾、対立、そして、挫折がメインテーマで救い様のない挫折が感じられます。本作は他の3作よりかなり遅れて執筆され、その間には、よど号ハイジャック事件、三島由紀夫の自衛隊での自決事件、連合赤軍事件、等がありました。そうした事が、本作の裏から透けて見えてくるようです。
今回も丸1日だけの出来事を描いています。導入部以降は、ミステリ仕立てになっていて、かなり深刻で暗い話ですが、一気呵成に読み進めるようになっています。今となっては、死語化している、フーテン、ヒッピー、サイケデリック、アングラ、フリーセックス、フォークゲリラ、ハプニング、等の言葉も出てきます。最後の方には、御馴染みの由美ちゃん、小林君も出てきて、作品に彩を添えています。
30年ぶり以上に再読しましたが、若い時には、理解できなかった事が色々解るようになってきました。また、庄司薫の暖かい目も少し理解できるようになりました。これ以後、庄司さんは、新作を発表していません。しかし、現実は、オウム事件、日本のバブルとその崩壊、湾岸戦争、リーマンショックと大きく変化してきています。庄司さんの今の目で新作を発表して欲しいと思いますが・・・4部作で力尽きたのかな?
若かりし頃、
芥川賞をとり話題になっていたこの本を暇に任せて、
なにげに読みました。
★衝撃でした。
“私がここに居る!”と正直なところ思いました。
空で暗唱できるほど(実際には出来ないが)読み返し、心の中にしみ
こませた“薫くん心!”(笑)
以後、この本が私の人生のバイブルとなりました。
そして、時が経ち、今あらたにDVDを購入し、見直す私。
この本を今の若い人達が読んで、この“薫くん心!”を、この“思い”
を理解してくれたならば、さらなる喜びとなるでしょう。
薫くんの目の前を横切った赤頭巾ちゃん が貴方にあもらわれるよう
願っています。