「隠された文壇史」をサブ
タイトルにしていますので、実質これを書名とすべき本文内容です。普通の感覚では、人に知られたくない、秘すべき内容であろうかと思います。しかしながら、作家研究あるいは好みの作家の実像を知りたい場合、こういう書はなくてはなりません。真実ゆえにです。意地悪く裏面を暴き出すのを目的にはしていないはずです。スキャンダラスなことばかり書いてくれてと、不快に思う関係者がいるかもしれませんが、著者もその点は心配りした上で「同時代を生き、彼らを深く敬愛した人間の愛情の言葉として受取ってもらえればこの上ない」と願っています。
〈永井荷風〉放蕩作家が密かに愛しつづけた一人の女性…。
〈谷崎潤一郎〉三人の姉妹と同時に関係を持ったある真相…ナイーブと幼稚性の同居。
〈志賀直哉〉神様に魅せられて食われてしまった人々…善意の人志賀直哉が生む芸術の魔力。
〈太宰治〉公表されなかった
芥川賞落選の裏舞台…佐藤春夫に泣訴状。
〈三島由紀夫〉耽溺の欠落が招いた優等生の悲劇…陽明学にも葉隠にも結びつかぬ。
読んだ後初めに思い出したのは、田中英光の「オリンポスの果実」。ストイックという意味では似ています。一人の女性を想い続け、まるで修行僧のように生きる男が主人公。他の女性と結婚するも、離婚。その後、山ごもり生活。結局再会を約した前日に手紙が届き、その女性の死を知る。現実に流されず生きつづける主人公の力強さは、ある種感銘をうける。山での生活の描写は、美しくそして力強い。主人公は、住所をいろいろ手を尽くして割り出したりして、今から考えたらストーカーまがいで、しかも、山ごもりなんかして、ヒッキー。でも、作品中で主人公は修行僧みたいに描かれているので許されているし、むしろ読後感は、爽快で、お勧めの一冊ですよ。