中丸三千繪さん。日本人で,というより
イタリア人以外で初めて「
マリア・カラス コンクール」で優勝した方。
ふだんオペラはあまり聴くことがなく,縁遠い世界だと思っていました。むしろ苦手だと思っていたかもしれません。
でも、中丸さんの歌声の柔らかく強い美しさに出会って、もう少し聴いてみたいと思うようになりました。
特にこのCDは、聴きなれた曲が多く、オペラの
アリアはちょっと苦手という私のような初心者にもお勧めです。
優しい気持ちにさせてくれる一枚です。
無名だった日本人女性が声楽の道で成功をつかむまでの様子が、滞在エッセイの要素も含めて描かれています。でもけっしてシンデレラストーリーではありません。努力して道を切り開いていった中丸三千繪さんのサクセスストーリーです。
声楽の道を志した直後は国内で泣かず飛ばずだった中丸サンですが、すぐに日本を飛び出して
イタリアへ渡ります。ぱっと見はおっとりしていて強さみたいなものを感じさせない彼女ですが、その行動力と、有名な先生に押し掛けて強引にトライアルを受けてしまう辺りの押しの強さに、将来成功してゆく彼女の片鱗を感じました。
そして
イタリアへ渡ってからは才能が認められ、オペレッタとしてどんどん成長してゆく彼女のサクセスストーリーには同じ女性として憧れてしまいました。
スカラ座でオペラを歌いたい。その夢をかなえるために、単身
イタリアのミラノに暮らした、若き日の中丸三千絵さんの情熱と、その生き方には感動しました。
イタリアの聴衆はオペラが大好きなだけでなく、耳が肥えた厳しい批評家でもある、との幾多の経験は、世界の歌姫と呼ばれるにふさわしい、実力派の声楽家に成長できた要因でもあったようです。
マリア・カラス自身も、
カラヤンの指揮が気に入らなくて「だったら、あなたが椿姫を歌ったら!」と言って姿を消し、二度と
カラヤンの演奏で歌わなかった、という逸話はとてもおもしろいと思いました。そんなカラスに負けないくらい、中丸さん自身が気丈で、芯の強い女性であったことも、随所で伺い知ることができます。それでいて、日本的であり謙虚な人なのです。そこが不思議です。
夢を持ち続けて、自分の人生を切り開くことの大切さを学んだ、貴重な一冊でした。飾り気のない、明るく素直な文章がとても心地よかったです。