ピアニストとしての名声は高いのにかかわらず、1960年前後に、モーツアルトのピアノ協奏曲、
ベートーベンのソナタ、シューマン等の10枚程度のレコードをEMIに録音した後、ハンガリーのレーベルで
ベートーベンのソナタ全集がある以外ほとんどない中で、こういう記録が、良好な音質で残されていたのは貴重であると思う。映像も残っているのではないか?
それにしてもまずピアノの音自体が素晴らしい、明晰で透明感があり、でも即物的な冷たさはない。モーツアルトの22番は、20、21、23、24番というモーツアルトの中でも最高級の作品群に挟まれていて、地味に聞こえるが、変ホ長調が示すように、魔笛、交響曲39番の調性であり、その清澄さを共有する。フィッシャーはしっかりとした技巧でその構築性を示し、2楽章の短調の部分などの左手の表現の説得的なことは素晴らしい。シューマンも
ベートーベンもやや遅めのテンポの中でスケールの大きい、でもみずみずしい音楽が展開する。
初めて聞く指揮者も含めN響のサポート(特に木管)もいいと思うし、22番は
ドイツの名指揮者ライトナーの貴重な記録でもある(ちょっと出だしが緊張感が足りないかなと思うが、次第に安定し立派になる)。