岩井俊二といえば、「リリイ・シュシュのすべて」「スワロウテイル」「PiCNiC」といった美しく残酷な作品、「花と
アリス」「Love Letter」「四月物語」といった美しく心がほっこりする作品、どちらも好きです。
TVドラマ時代の「打ち上げ花火・・・」「FRIED DRAGON FISH」「GHOST SOUP」はあんまりお金や時間をかけてないかもしれないけど、すでにそのセンスが充分盛り込まれ、想像を超える展開をみせます。短編であるけど、いい短編小説を読み終えたときのようななんともいえない気分にしてくれます。ああこんなTVドラマ観たいなぁ。
今回のDVDでいままでほとんど観ることができなかった作品が観れるのは、とても幸せなことです。岩井俊二は映像のイメージが強いけど、脚本がとにかく凄いのです。
主人公は、母子家庭の尚子(小学校6年生)。
母は雑誌のフリーライターをしていて、今回は
モンゴルへ取材に行くため、
尚子を桜小路のオムレツ屋を営む尚子の祖母と母の兄夫妻の元に託して
(半年預ける予定で)渡航してしまう。尚子にとって7回目の転校です。
母の兄夫妻には(同じ小学校6年生の)双子の兄弟、和也と敏也がいますが、
敏也は、わけあり。
足が不自由で学校が休みのとき以外は寮生活を強いられています。
兄弟の、互いをいたわりつつもギクシャクした関係と
尚子と奔放な母との温もりを欠いているような関係が
オムレツ屋に関わる人々とふれあう中で、
ぶつかり合い、少しずつ溶け合っていきます。
兄弟も尚子母子も読み手の心も
じんわり、温かさを取り戻してくれるようなお話です。
有名な作家の宝山幹太郎さんの言葉
「たしかに一番上はいい。でも、一番下もいい。そして五段目の景色もいい。
どこだってすばらしい景色はあるんだ。
でも、そこにすわってじっくり見なければ、景色のよさはわからない。」(p118)は、
歌謡曲の歌詞のさびの部分のようでいい。
チャイナ
ドレスを着て香水に包まれて登場する風変わりな常連、珠子さんや
大沢酒店のおじさん、
オムレツ屋のドアにつけられたカウベルとその音、
庭に桜の木のあるオムレツ屋さん
鉢植えのゼラニウムetc.
ちりばめられた素敵なディテールが物語に色彩を放っています。
第59回(2013年)青少年読書感想文全国コンクール
小学校5.6年生課題図書です。