原著は2003年。著者は投資運用をしたり、コンサルティングをしたり、という経歴の人。前半はオプションやら効率的市場仮説やらの説明が延々と続く。後半になって「ヘッジファンド」の話になる。
曰く・・・
投資信託では、投資家はマネージャーを雇うが、ヘッジファンドでは、マネージャーとパートナーシップ契約を締結する。ヘッジファンドのマネージャーは個人的にも投資するので「スターと共に投資する」ところに魅力がある。
ヘッジファンドと投資信託の境界線は曖昧になってきている。SECはヘッジファンドへの投資を目的としたクローズドエンド型の投資信託の組成を認めている。
ヘッジファンドは売買が活発なので、証券会社に多くの手数料をもたらす。また、証券会社がアイディアを売り込むとき、ヘッジファンドは素早く判断する。これも証券会社に好まれる。
スペキュレーションは方向性のトレーディングと考えられる。ヘッジャーはロングポジションとショートポジションを同時にとるが、ロングかショートのどちらが良い動きをするかを暗黙に想定して賭けている。ヘッジャーは、ベーシスに対してスペキュレーション取引をしている。ヘッジの目的はリスクを減らすことだが、リスクを完全に取り除くことはできないし、時にはリスクを減らすことすらできないことがある。ヘッジの目的とヘッジの現実は別。
オプションの買い手は大きな利益を求めるが安定した利益を求めず、勝つ回数よりも負ける回数の方が多いと思っている。オプションの売り手は頻繁に勝ちたいと思っており勝ちは小さいが大きく負ける確率は低い。
「δ(デルタ)」は、オプション価格の変化を原資産価格の変化で割ったものであり、コール・オプションの場合はアット・ザ・マネーで0.5、イン・ザ・マネーで大きくなり、アウト・オブ・ザ・マネーで小さくなる。デルタの考えからMS株のオプション価格の動きを模した株式ポートフォリオを組むことができる。たとえば、MS株100株のアット・ザ・マネーのコールを保有すると想定すると、オプションのデルタが0.5なら100株のポートフォリオの価値に100ドルの増減があるとそのオプションの価値は50ドル増減することになるので、このオプションはMS株50株と同じ価格感応度を持つことになる。MS株価が上昇してデルタが0.6になると、MS株60株に相当する。つまり、アット・ザ・マネーのコール・オプションと同じ働きをする株式ポートフォリオを作るにはMS株を50株を保有し、価格が上昇したら買い増し、下落したら売ればいい。結局、ダイナミック・トレーディング(高くなれば買い、安くなれば売る戦略)になる。オプションのロングポジションを複製しようとすればモメンタム投資家(トレンドフォロー的な投資家)のようになるし、ショートポジションを複製しようとすれば逆張り投資家のようになる。なぜオプションのポジションを複製するかといえば、オプション・プレミアムを払いたくないから。1980年代にこのポートフォリオ・インシュアランスが大流行するが、これが1987年の大暴落の一因。ポートフォリオ・インシュアランスは、機関投資家の株式投資の配分を高めさせ、さまざまな順張り効果によりマーケット・トレンドが強調され(買いが買いをよび、売りが売りをよぶ)、大暴落のときにはオプションの複製が不可能なほどの急落なのでプロテクションにならなかった。
規制を増やすことはリスクを減らすことを意味しない。投資信託ビジネスはヘッジファンドよりも規制されているが、高リスクの投資信託もあるし、リスクを嫌うヘッジファンドもある。
ヘッジファンドは、株式ヘッジファンド(アクティブな株式運用で個別株式を分析する。バフェットはこのタイプ)、グローバルアセットアロケーター(米国株インデックスを買って
ドイツ株インデックスを売る、のように広範な市場、広範なテーマに照準をあわせる。ソロスはこのタイプ)、相対価値マネージャー(ヘッジを中心とし、ロングとショートの金額を揃える。マーケット中立。市場全体の上昇下降に影響されないかたちで、相対的に同質の世界から証券を選び、ロングとショートのバランスを取る。ロングとショートのパフォーマンスの差を収益にする)、イベントドリブン型マネージャー(企業の組織構造に影響を与える取引に焦点を合わせる)、の4つに大別できる。
相対価値投資のうちの債券ヘッジは、イールド(利回り)の大きい債券(安い債券)をロングし、イールドの小さい債券をショートすることでスプレッドから収益を得ようとするが、一般的にはリスクの低い債券をショートし、リスクの高い債券をロングしようとする。スプレッドが小さいので巨額のレバレッジをかける。ヘッジファンドの世界の惨事のいくつかは債券ヘッジで起こる。LTCMも債券ヘッジ。
みたいな話。