本書はジル・ドゥルーズの愛弟子であるジャン=クレ・マルタンによる西洋の古代から現代に至る百人の哲学者と彼/彼女たちの百の哲学、主要概念について独自の切り口でリリックにそして軽快に語られた哲学者入門の書である。副題に「ヘラクレイトスからデリダまで」とある。しかし生年で考えると、「ヘラクレイトスからジャン=リュック・マリオンまで」である。ヘラクレイトス紀元前五四〇年年生、マリオン一九四六年生である。仏書原書では
アルファベット順でアベラールから始まりウィトゲンシュタインで終わるらしい。本書はあいうえお順なのでアヴェロエスで始まりロックで終わる。かといって事典的な本ではない。百人の哲学者による百の言葉は以下の通りである。
「アヴェロエス/読解」「聖アウグスティヌス/告白」「アドルノ/断片」「アベラール/普通名詞」「アラン/プロポ」「
アリストテレス/倫理」「アルキエ/欲望」「アレント/危機」「聖アンセルムス/神」「アンリ/受動性」「イポリット/非理性」「ウィトゲンシュタイン/言語ゲーム」「オッカム/個物」「ウェーバー/幻滅」「エピクテトス/宿命」「エピクロス/アトム 原子」「カッシラー/シンボル形式」「カヴァイエス/身振り」「カント/美学」「ギュイヨー/力」「キルケゴール/可能」「クー
ルノー/偶然」「ゲーテ/変形」「ゲルー/構造」「コジェーヴ/無」「コンディヤック/感覚」「コント/実証主義」「
サルトル/存在 実存」「ジェームズ/プラグマティズム」「シェリング/根底」
「シェレール/歓待」「シモンドン/個体化」「ジャンケレヴィッチ/不可逆性」「ショーペンハウアー/夢」「ジンメル/モデル」「スピノザ/至福」「スーリオ/超実存」「セール/秘法」「セネカ/名声」「
ソクラテス/自己認識」「タルド/信念 欲望」「ディドロ/俳優」「ディルタイ/理解」「デカルト/生得観念」「デューイ/道具」「デリダ/差延」「ドゥルーズ/多数多様性」「ドゥンス・スコトゥス/一義性」「聖トマス/大全 総和」「ナンシー/移植」「ニーチェ/永劫回帰」「バークリー/知覚」「パース/記号」「ハイデガー/不安」「バシュラール/瞬間」「パスカル/賭け」「バタイユ/浪費」「バディウ/出来事」「パルメニデス/道」「ヒューム/経験」「フィヒテ/自我」「フーコー/古文書」「フッサール/現象」「ブートルー/偶然性」「プラトン/イデア」「ブランショ/無限」「フロイト/無意識」「ブロッホ/希望」「プロティノス/観照」「ヘーゲル/承認」「ヘラクレイトス/生成変化」「ベルクソン/持続」「ベルジャーエフ/光」「ベンヤミン/オーラ」「ボエティヌス/慰め」「ホッブス/恐怖」「ホワイトヘッド/過程」「マキャヴェリ/策略」「マリオン/贈与」「マルクス/フェティッシュ」「マルクス・アウレリウス/現在」「マルブランシュ/機会」「メーヌ・ド・ビラン/努力」「メルロ=ポンティ/キアスム 交差配列」「モンテーニュ/エッセー」「ヤスパース/
暗号」「ラ・ボエシー/隷属」「ライプニッツ/モナド」「ラヴェソン/習慣」「ラッセル/パラドックス」
「ランシエール/対立不快」「リオタール/抗争」「リクール/物語」「ルキエ/自由」「ルクレティウス/旋回」「ルソー/起源」「ルヌーヴェイユ/関係」「レヴィナス/顔」「ロイス/地図」「ロック/所有」
である。
私がよく存じ上げない哲学者も多々いてたいへん勉強になった。ラカンはなかったが。本書はあくまで「入門書」であり、あまり「詳述」はされていないが、クリアカットな概説書として十分にその役割を果たしている。扱われている哲学者によって記述のムラが感じられるが、まあそこはお愛嬌である。
西洋哲学史入門の定番として広く用いられてほしい一冊。おすすめ。