ニック・ドレイクの2作目。
1作目は控えめで音数が少なめだったが、この2作目では、バックの演奏が相当にぎやかで、下手をすると、つぶやくようなニックのボーカルが隠れてしまいそう。実際、昔、コアなフォークファンの間では、過剰なアレンジが不評を買っていたらしい。
しかし、90年代の日本では
渋谷系とされる人たちの間でこのアルバムはマスターピースと評価され、さらには2000年代の欧米での再評価を受け、現在ではこのアルバムも、1作目同様、傑作作品の一つとして揺るがない地位を獲得した。
それにしても美しいアルバムだ。1回通して聴いても、また再生しなおしたくなってくる。何十回、何百回聴いても、聴くたびに新鮮さを感じることができる。
「ブランデンブルク協奏曲」に送られて、世を去ったニック。優雅な「ブランデンブルク協奏曲」を連想させるものが、このアルバムにはある。もちろん、ニックも他の誰も、ニックがそのような形で世を去ることになるとは、この段階では予想もしていなかっただろうが…。
作品自体は確実に星5つです。リマスターによって音も良くなっています。ただし、2010年にはSHM−CDでなおかつ1800円で発売されているので、そちらの方が良いと思います。
このアルバムは、ニック・ドレイクが21歳の時にほぼ1年がかりで録音したもの。完成度の高さにびっくりします。アウトテイク集の『タイム・オブ・ノー・リプライ』には、このアルバムの録音時の音源が多く収められています。2011年現在、『タイム・オブ・ノー・リプライ』は廃盤で入手が困難になっているのが残念です。
さて、この2000年発売のニックドレイクのリマスター盤3枚は、残念ながら歌詞の日本語訳がついていません。だから、星を一つ減らしました。ニック・ドレイクのように歌詞が重要な意味を持つシンガーソングライターの作品には歌詞と日本語訳の両方をつけて欲しかったです。
あまりにもシャイで人と接することを苦手とし、ライブを行うことに心底嫌気がさし、またとない才能を持ちながらも成功を収められずに精神を蝕まれ、そうして摂取したドラッグや抗鬱剤によってさらに状態が悪化する…、本文のおよそ半分には、勿論そういったやり切れない事実が書かれている。しかし、幼少期や高校・大学時代、デビュー当時の彼は冷静ではあったものの人当たりが決して悪くなく、思いやりのある家族や周囲の人々に恵まれ、音楽やスポーツ、旅行などを楽しんでいたとの記述もそこかしこに見られるし、本人にとっては遅すぎたことかも知れないが、死後に彼自身と彼の音楽が多くの人に知られ、愛されるようになった記述もある。
何よりも死の直前の数週間、ニックが快活な様子を取り戻して音楽活動を再開したいという意向を口にしていたことを彼の両親の証言から知った。そして、死の原因が寝付きの悪かった際の坑鬱剤トリプチリンの過剰摂取であり、自殺の意図を必ずしも示すものではないということも。
本文は家族、友人、仕事関係者を中心とした驚くほど数多くの証言から成り、ニック・ドレイクの真実の人生に近付こうとする真摯なもので、過剰なところは少なく、時に拍子抜けするほど地味ですらあった。しかし、その姿勢は実に好ましいものであり、ニックの生涯を多面・重層的に捉えて大いに関心を傾けて読むことを促すように思われる。
それゆえに『ニック・ドレイク 悲しみのバイオグラフィ』という邦題がつけられているのが残念でならない。原題が『Nick Drake The Biography』であり、できるかぎり真実の歪曲を避けるものなのに。せめて、この本を読む人に少しでも彼の本当の姿が伝わることを願います。そして、ニック・ドレイクのうつくしい音楽が偏見なしに愛されますように。
ニック・ドレイクの唄、自身が弾くギターとピアノ(A-1)だけで構成された全11曲。収録時間は約28分。つい繰り返し何回も聴いてしまう、不思議な魅力をもったアルバム。冬の朝に熱いお茶を飲みながらよく聴くアルバム。夜更けに聴くのも良いが、ニック・ドレイクの世界に引きずり込まれもうなにも手に付かなくなってしまう。「Horn」(A-5)が特に気に入っている。