帯に「『近代日本奇想小説史 明治篇』のおためし判」と書かれていますが、独立の一冊として十分の
価値を持っています。
「明治篇」が高価（12000円！）で明治に集中し押川春浪の死で終わるのに対し、本書は明治・大正・
昭和も展望し、海野十三の活躍や平田晋策の架空戦記「新戦艦高千穂」などについても十分に書かれており、
けっして「明治篇」の抜粋・縮約本ではありません。引用される書物の写真、挿絵も豊富に掲載されています。
こういうのを手にすると、つくづく横田順彌氏の「日本ＳＦこてん古典」が復刊されないことを訝しく
思わざるを得ません。せめて現在ＳＦマガジン連載中の「近代日本奇想小説史または、失われたナンジャ
モンジャをもとめて［大正・昭和篇］」が長く続き、単行本になることを願うばかり。

人間の想像力はどうしても自分の知った世界にしばられることを思わせる。それにしても、この手の本をまとめる横順の力はたいしたものだ。

明治時代の作家たちが、なんとも面白い、なんともハチャメチャな奇想天外な小説を書き残してしていることのわかる1冊。
中学、高校で学習したいわゆる前向きな、なんとも味気ない文学史とは異なる温かみのある「もう一つの文学史」がここに完結しています。明治から大正時代にかけて生きた多くの人々の多彩な生きかた、豊かな想像力をうかがい知ることができます。
まさに、日本の「失われた時」を想像力で旅したい人のための文学史です。