タイトルだけ見るとビジネス書っぽいが、中身はかなりまじめな
アリハチ類の行動生態学の本。
第一、二章は
タイトル通り働かない
アリについての著者自身の研究の紹介。少なくともシワクシケ
アリという種では、一時的に休んでいるのでなく本当にいつも働いていない個体がいるらしい。その個体差を生み出すメカニズムまではわかっているようだ。なぜそんな個体が進化したのかは推測の域をでていないようだが、仮説のベースとなる反応閾値説は
ミツバチなどの研究で支持されているらしい。
三章は行動生態学の理論的基礎。血縁選択(と集団選択)の説明。四章は
アリハチ類に見られる進化的な利害対立について。高度に組織化された彼らの社会でさえ、みんな仲良しこよしではなく対立・裏切りがあるのだ。しかしその裏切りっぷりがすごい。同じ種なのに、寄生生活に専門化された一族がいるらしい。なぜ裏切り者がはびこらないのかについては裏切り者の有害さと繁殖率、コロニー自体の生産性と複製率の釣り合いによって説明している。この説明自体は昔からあるオーソドックスなものだが、実際に検証されているようだ。
この章の後半が本書のクライマックスかもしれない。ヤマトシロ
アリやコカミ
アリでは繁殖雄系統と繁殖雌系統は遺伝的に独立しているとか(しかし働き
アリは両親の実子)、人間の想像を超越したむちゃくちゃな家族構成だ。五章は「群れ」とは何か、終章は自然選択説の科学的位地について。どちらも概念的で科学哲学的な説明だがよくまとまっている。
これらの知見を生態が異なる人間に当てはめるのは無理と著者自身認めているにもかかわらず、たびたび人間社会と絡めた説明にしているのは誤解を生むだけのような気がする。純粋に
アリハチの生態と進化に興味がある人におすすめ。