カブトムシと
クワガタの行動生態本で、フィールドワークに徹しており、分子的な研究は全く紹介されていないので物足りなく感じる人もいるかもしれない。日本ではカブトとクワは雄同士が戦う生物の代表格といっても良いだろうから、あまり研究されていないというのは意外だった。ちょっと推測どまりの仮説が多いが、子供の頃に夢中になった人なら楽しめるはず。
面白かったところを幾つかあげるとー
他の動物でも観察されている通り、カブトのオス闘争の大部分は儀式的闘争で決着がつくらしい。興味深いのは、儀式的闘争ではツノの大きさが重要なのに、実際に戦うと体格で勝敗が決まりツノは関係がないらしい。つまりツノは「不正直な信号」なわけだ。でも不正直な信号は進化するのが難しいとされている。ツノが実際の強さを表していないなら、なぜそれで決着を付けるのだろう(本書と同時期にでたエムレンの研究では、角と体格には相関があって正直な信号になっているということだった)。
カブト♂は交尾後メスをえさ場から放り投げるが、クワ♂はしばらく付き添うらしい。著者は淡白なカブトと熱心なクワという風に描いているが、クワ♀は積極的に多回交尾するのだろうか。だとしたらその違いはなぜ生じたのだろう。カブトの方が交尾のリスクが高いのだろうか?
戦っては勝てない小型個体にも何か有利な点があるのではないかと飛翔能力を調べるために、ひもを括りつけてストップウォッチで時間を測ったり、地道な観察で捕食者を発見したりという苦労話も面白い。