ハワイイにしろ、イラクにしろ、宮澤賢治にしろ池澤夏樹の手にかかるとこうなるという、とってもいい見本のようなもの。俯瞰して見る。現象だけを見る。これはもう科学者の目だ。幾多の宮澤賢治論が文学者の間で繰り広げられてきた。しかしこういった切り口ではなかった。情緒的で鼻についた。農業は科学であり、宮澤賢治は科学を愛した。池澤夏樹もまた理系であり詩人である。賢治による科学と詩の理想的な邂逅は、池澤夏樹という理想的な適任者によって開陳された。すばらしいことじゃないですか。これからは宮澤賢治のことをケンジさんと呼ぼう。
前期の集団、政治的映像から、主人公を作る映像に変化を遂げたテオ・アンゲロプロスにとって、「永遠と一日」は両方の集大成だろう。現在と過去を自由に行き交う映像とガンツの思いが、見事な叙事詩となって胸に突き刺さって来る。日本にも溝口健二や小津安二郎 と言った素晴らしい映像作家はいるが、世界にはもっと凄い作家がいる。
「ひょうひょうと、笛を吹こうよ・・・」で静かに始まる、本当に叙情的な歌です。川面を流れるヒメマスは我々自身でしょうか。この作品は、全楽章とも『絵画的』なんですね。1曲目の盛り上がりの「ガラス細工の夢でもいい、与えてくれと。失った無数の望みのはかなさや、遂げられたわずかな望みの空しさが、明日の望みも空しかろうと笛に歌っているが・・・」の部分は、本当にジーンときます。
2曲目の木馬、3曲目の「この夕べ・・・」ではじまる本当に夕日をバックに歌うべき佳作。そして最後の5拍子の「空を渡れ、碇を上げる星座の船団!」では、激しいピアノのパッセージに乗せて希望への賛歌が堂々と歌われる・・・。このコラムを読んでいる人で、合唱団に所属して全日本に出た経験のある人はいますか? この曲はいまだ一度も歌われていません。1曲目と最終曲を浪々と歌い上げれば、相当の賞がもらえると思うんですよね・・・。
演奏団体は
大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団といって、凄く巧い団体です。
おなじみの東混は音大出身者オンリーのせいか、
歌い方が独唱的で、一人一人は上手でも全体のまとまりを欠いているのに対し、
この団体は他の団体とは比べ物にならないぐらいぴったりと声が揃っていて、
とても重厚で柔らかく温かい、官能的とも言えるハーモニーを作り出しています。
ハーモニーが美し過ぎるため、無伴奏合唱曲集のはずなのにモテトゥスで使われるような通奏低音が流れているように錯覚してしまいます。
木下牧子氏の作品は皆独特なハーモニーを持ち、このハーモニーに魅かれる団体が多いのですが、
同時に特定の調や音階にとらわれないハーモニーであるため、音程が非常に取りにくく、愛唱している団体は多いのに、
完全に歌い切れている団体はほとんどありません。
そんな中で、このCDは木下牧子氏の作品を扱ったCDの中では、最高級のCDと言えるでしょう。
この値段では安過ぎる位の完成度です。
このレヴューを偶然眼に留めた方は、一生に一度の出会いと思って購入してください。
これを聴かずに生涯を終えたら、それは罪なことです。
個人的に私は「祝福(混声)」「棗のうた(女声)」「ロマンチストの豚(男声)」がおすすめです。
ちなみに、他の「日本合唱曲全集」シリーズでは一人の作曲家の組曲をいくつか選んで一枚のCDにまとめているのに対し、
このCDでは木下氏の無伴奏作品を属する組曲にとらわれずに集めています。